野中光正展

2018.2.2(金)~ 2.12(月)会期中無休
11:00~19:00(日曜日、最終日は17:00まで)

野中光正 平面と立体

野中さんが立体作品を初めて展示したのは一九八九年、ゆーじん画廊での六回目の個展の時であったと思う。展示空間の中央に等身大の緑青色一色に着彩された柱(直方体)のような立体(彫刻)が置かれ、これを取り囲むように四方の壁面に二十数枚(二十数色)、矩形の単色色面(画面内に形のない)木版画を等間隔に配置するという展示だった。もう一つの部屋には小さなサイズの立体が数点、平面作品とともに展示された。単色色面といっても木版画という技法上、版は一版でも刷りは数回重ねられ一色(一点)の版画が作られる。同じ色を重ねる場合と異なる色を重ね単色に見せる場合とがあり、版を重ねることで生じる微妙な版ずれが見られる作品もあった。イリュージョンの排除、図と地の分離の解消等ミニマルアートの文脈でしか捉えていなかった当時の私にはその形式的な不徹底さ故に不満が残ったことを覚えている。「色見本」とか「実験的」とか言われ頗る評判が悪かったこの個展は、今から考えると野中さんにとって、とても重要な意味をもつ個展であったように思える。
今回出品される立体作品はその時の作品と形式的な違いはない。平面作品同様、表面に布が貼られ、顔料から調合された絵具によって天地、側面、すべての面が彩色された矩形の板、直方体、方体のパーツによって構成され、各々のパーツは接着され自立する一つの塊(ヴォリューム)を得ている。建築模型や積み木遊びを連想させもするこれらの立体作品には直接平面作品を参照したものも多く、タッチやテクスチャーまで再現されているので、ちょっと笑ってしまうくらい見事に絵画がレリーフ(自立し、背面、側面も作られているので完全なレリーフとは言い難い)に変換されている。また、この変換作業でとても興味深いのは正面以外の面(側面、背面、天地)にその制作方法上、偶然的に正面とは全く異なる複数の平面(絵画)が出現していることである。これは野中さんの絵画・木版画で多用される一つの同じ形(版木)を移動し部分的に重ねることによって新しい一つの形を生み出していく方法ともどこか通じているように思われる。
さらに、立体作品は野中さんの絵画を成立させている重要な要素を教えてくれる。絵画における個々の形とは単なる平面ではなく、色彩の力学的な均衡によって循環する関係を保ちながら、それぞれが固有のヴォリュームを持ち、互いにテンションをかけあいながら矩形の画面に収まっている。このことによって初めて平面は単なる平面ではなく絵画的な空間へと変貌する。 素材(物質)に対する鋭敏な感覚によって裏付けられ、観念的な構図、洗練されたデザイン的空間ではなく、あくまでも具体的に、意味とは無縁の物質の感覚として抽象絵画を成立させようとする野中さんの試みは、平面/立体作品が互いに補完し合いながら新たな展開を迎えて行く、そんな予兆を感じている。

和田章一郎(旧ゆーじん画廊主)

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